湯川秀樹博士の扁額について
昨年、湯川秀樹博士が生前に揮毫された2点の墨書が、ご家族から寄贈されました。
寄贈された時点では、経年による変色などの劣化が見られましたが、この度、専門の表具師による修復と額装を無事に終え、理学研究科の建物内に扁額として飾り付けることができました。
知魚楽(ちぎょらく)
これは、中国の古典『荘子』秋水篇に由来する言葉です。
このエピソードでは、思想家である荘子と友人の恵子による魚の楽しみを巡る問答を通して、物事の本質や他者の心を本当に理解できるのかという認識論的な問いかけ・科学哲学が示されます。
湯川博士は随筆のなかで、このエピソードにおける荘子の立場に共感すると述べており、「知魚楽」とは、科学的探究の根底には、自然に対する深い共感と、目に見えないものを感じ取ろうとする豊かな感性が必要であるという、博士の信念の表れと言えます。
この扁額は私たちに、専門分野の知識を深めるだけでなく、幅広い視野と、物事の本質を見抜く洞察力を養うことの大切さを語りかけています。
学而不厭(がくじふえん)
この言葉は、『論語』述而篇にある孔子の言葉です。
「学(まな)びて厭(いと)わず」と読み下し、「どれだけ学んでも、決して飽きることがない」という意味を表しており、知の探究に対する絶え間ない情熱と、謙虚に学び続ける姿勢の重要性を説いたものです。
湯川博士はこの言葉を好んで揮毫し、また「一日生きることは、一歩進むことでありたい」という名言でも、その精神を表現しています。未知なるものへの探究心こそが、博士を偉大な業績へと導いた原動力でした。
この扁額は、私たちが生涯を通じて学び続けることの尊さと、日々の研鑽を怠らないことの重要性を力強く示しています。
これら2つの言葉は、湯川博士の深い思索と学問への姿勢を表したものであり、理学研究科・理学部で学問に励む学生や教職員にとって、大きな指針となるものです。


